光闇 「忘れられた世界の果て〜奇跡の花を咲かすために生まれてきた〜








 水を通して、籠もった機械の動作音が聞こえてくる。
 最初は耳障りでしかなかったその音も、今ではまるで身体の一部の様に馴染んで心地良い位だ。いや。今となってはそれは本当に自分の一部になってしまっていた。おそらくこの音が止まった時が、まだそう言えるのか疑わしいが、俺自身の命ってヤツが尽きる時だろう。そして、その時がもう目前にあることは間違いなかった。
 そんな闇が満ちた場所に一筋の光が射した。
 その眩しさに気付いて自分でも思い出せないくらい、随分と長い間閉じたままだった瞼をゆるゆると上げると、そこには自由の利かない闇の中で、何度も思い浮かべた人が光を背に立っていた。



 何度忘れても、何度引き離されても、俺達は巡り会うだろう。



「忘れられた世界の果て」




 turn.1 夢の続き




「……ここ、どこだぁ?」
 目が覚めたら見知らぬベッドの上だった。窓から差し込む光をやわらかく通すカーテンや清潔な部屋の様子から、病室のようだとは予想がついたけれど、何故自分がここに寝ていたのかちっともわからない。状況が掴めず、辺りを見渡しながら発した間延びした俺の声に、そこに居た男がハッと振り返ったのと、俺がそいつに気付いたのは同時だった。
「十代……っ!」
 ベッドの脇に崩れ落ちる様に駆け寄って来たそいつの様子に、申し訳ない気分でいっぱいになる。どうやら随分心配をかけてしまっていたようだ。
「どうして俺、こんな所に?」
「!……覚えてないのか?」
「何を?」
 そいつは何も思い出せない俺に驚いた様子だったけれど、少し考え込んだ後、気遣う様にゆっくりと言葉を続けた。
「……事故に、大きな事故に巻き込まれたんだ。なかなか目を覚まさないから心配した」
 そう言いながら俺を見るそいつの眼差しはとても優しくて、何だか尻がムズムズする。
「事故……そっか、だから何か変な感じなんだな」
「変?もしかして気分が悪いのか?それともどこか痛むのか!?」
「ああ、いや、そんなんじゃないぜ!なんか、ちょっとボーッとしてるだけ」
「本当か?お前自分からそういうこと言わないから信じられないぜ〜」
「マジだって!」
「ならいいけど〜……」
 そこで俺は、いつもどんな時でも側に居る相棒・精霊ハネクリボーの姿がないことに気付いた。
「……相棒?なあ、俺のデッキは!?」
「……事故の時に、行方知れずに……」
 砂を噛むようなそいつの言葉に一気に血の気が引いた。これまで幾度もピンチを共に乗り越えてきたヒーロー達、そして、あの伝説の決闘者・武藤遊戯さんから貰った、大切な相棒が行方不明だなんて……!
「俺、探しに行く!」
 ベッドから飛び起きた俺を、そいつは慌てて押さえつけると、今までの優しい様子からは想像もつかない鋭い声で制止した。
「ダメだ!お前は目を覚ましたばかりなんだぜ!?身体の方もまだ本調子じゃないはずだ!」
「けど、あのデッキは……!」
「十代がデッキを大切にしているのは、みんなよくわかってる。だから事故の後、お前の意識がない間もみんなで探したんだぜ?もちろん今だって探してる。だから、お前はお前を思ってくれる仲間の為にも身体を休めるんだ」
 そいつの強く鋭い、けれど何処か縋るような視線に、俺はそれ以上逆らえなかった。
「そっか……わかった」
 そうは言ったけれど落ち着かない。こんなんじゃ、遊戯さんにも相棒にも会わせる顔がない。凹んだ俺を気遣ってくれるそいつに、さっきの鋭さはなかった。
「大丈夫、きっと無事さ。なんてったってお前の仲間達だぜ?そしてお前が迎えに来てくれることを待ってる。はやく元気になって一緒に探しに行こう!」
「そうだな……サンキューな!」
「とりあえず、医者に十代が目を覚ました事を知らせないと。ウロチョロせずに大人しく寝てろよな!」
「おう。ところでさぁ」
 頭元にあったナースコール?を押して俺のことを知らせると、医者が来るのが待ちきれないのか、迎えに行こうとベッドから離れようとしたそいつに、俺はさっきから気になっていたことを訊ねた。
「お前、誰?」
「…………!?」
 俺、なんか変なこと聞いただろうか?そいつはとても綺麗な碧い瞳を見開いたまま固まってしまった。






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