おまけその1 そして続く世界 の続き 十代に引っ張られて病院の廊下を走りながら、ヨハンはふと気づいた。 「なぁ、十代。2ヶ月近くも寝てた割には、身体普通に動くんだけど。俺、本当にそんなに寝てたのか?」 もし本当に2ヶ月近くも寝たきりだったとしたら、筋力が衰えてしまって、こんな風に走るどころか立つことさえ出来ないはずだ。そんな俺の疑問に十代は至極普通に返事した。 「マジだって。ユベルが毎日のようにヨハンの身体使ってたから、普通に動けるんだと思うぜ」 あまりに普通に言うものだから、ヨハンは一瞬納得しかけた。 「ああ〜なるほどなぁ〜・・・って、ええっ!!ユベルが!!?おいおい、勘弁しろよ〜。まさかまたボンテージ着てたんじゃないだろうな?」 「ああ、着てる時もあったけど?」 「・・・・・・・・」 異世界で意識を取り戻した時のことを思い出してヨハンは閉口した。異世界でならまだしも、この世界であんな格好をして動き回っていたとしたら・・・もう一度世界を滅ぼしてやりたい気分になった。 そんなヨハンの気持ちを知ってか知らずか(おそらく特に何とも思ってないのが正しいだろう)、十代は何かを思い出してヨハンを振り返り訴えた。 「つうか、ユベルよりもみんなの方が問題だって!大変だったんだぞ」 「ああ〜、やっぱ怒ってるよな〜・・・」 切羽詰った十代の様子から仲間達の腹を立てた姿が浮かんで、ヨハンがそう答えたら、珍しく眉を垂らした十代が弱音を吐いた。 「いや、そうじゃなくてさ。さすがに今回迷惑かけて悪かったと思ってさぁ〜、詫びに何でも言うこと聞くって言ったらさぁ、三沢には訳のわからない実験に協力させられるし、エドには付き人やらされるし、剣山は公式ファンクラブ作るから許可が欲しいって言うし、ユベルはヨハンの身体使いたいって言うし」 「・・・・・・」 ヨハンは心の中のブラックリストに三沢を加えた。エドの付き人は内容しだいでブラックリストだ。剣山の計画は嫉妬心を煽られるが、ファンクラブ会員番号1番を貰えるなら許してやろう。そんなことを思ったが、ヨハンは空気を読んで口には出さなかった。 「ユベル関係なくね?それに俺の身体は俺のもんだ。つうかさ、ユベル大丈夫なのか?それにあいつ闇属性だろ。どうして俺の身体使えるんだよ」 「ああ!超爆発のエネルギーを吸収して回復出来たんだって。あと今回のことで耐性が出来たらしい。ユベルがそう言ってた」 「へぇ〜〜、超爆発すげーな!」 「それよりさぁ〜、その流れで今すげー困ってるんだ。翔達がリーグ戦開催するから、優勝商品として参加しろって」 そこでヨハンの堪忍袋の緒が切れた。保っていた笑顔がストンと落ちる。 「・・・・あいつら全員俺が消す。今すぐ光の粒に還してやる」 「消さなくていいから逃げようぜ!」 十代はそう言って、握ったヨハンの手を引っ張った。 そういえば、こうやって十代が黙って逃げ出す時に、ヨハンを連れて行くなんてはじめてのことだった。それに気づいて不満は一気に吹き飛んで行った。しかし心の中のブラックリストに翔の名前を加えることは忘れない。 「あ、そうそう、それで思い出した。オブライエンがさ、ヨハンに聞きたいことがあるって」 「聞きたいこと?」 まさかあのオブライエンまで、みんなと同じようなことを十代に注文したのかと思ったら、十代の口から出て来た内容にヨハンは拍子抜けした。 「あのシステムのD・D・Gって何の略なのか知りたいって。オブライエンには今回すげー助けて貰ったから、何でも言えよって言ったらそれが知りたいってさ。よくわかんねーよなぁ。つうか、その会話を他のヤツ等が聞いてた所為で、俺大変だったんだけど!」 オブライエンはどこまで行ってもオブライエンでヨハンは安堵した。いや、もしかしたらヨハンや十代の危険性を、よく理解している所為かもしれないとも思えた。 「あいつは変なことを気にしてるんだなぁ〜」 「だよなぁ〜。D・D・Gつったら『ディファレント・ディメンション・ゲート/異次元隔離マシーン』以外にないと思うけど」 「あ〜、それ合ってるけど違うんだな」 「どういうことだ?」 「最初に計画立てた研究者がプロジェクトに『Genesis of different dimensions/異次元の創世記』って大そうな名前を付けてたんだ。研究が成功すれば次元を超えた新たな時代が始まるだろうって期待を込めてさ。ただ、その危険性も知っていて表立って出来る研究じゃなかったから、研究者同士の隠語として『G・D・D』とか『D・D・G』を使ってたんだ。そこから『異次元隔離マシーン』と呼ばれるようになったって話だ。あと、もうひとつ隠語があったな・・・・確か『God does not play dice/神はサイコロを振らない』だっけか」 「神はサイコロを振らない?」 「不確定性原理についての、昔の偉い科学者の言葉さ」 「不確定性・・・原理・・・・???」 「ああ。ただの研究者達の語呂遊びだから、わからなくていいと思う。だから正式名称は『異次元の創世記』だ。ま、実際起こったことは、その研究者の意図とはまったく違っただろうけどな・・・」 現実には破滅の光に悪用されて、世界を滅ぼすところだったのだ。力に善悪はないとは言うけれど、余りある力は大抵世界を不幸にする。とはいえ今回の元凶はヨハン自身で、その記憶はあまりにも新しく生々しいものだったから、そんな言葉で済ませてしまうことは出来そうになかった。 ヨハンの表情が少し沈んだことに気づいた十代は、握っていた手に力を込めながら言った。 「そうかな。俺は的を射た、いい名前だと思うけど?」 十代が病棟の扉が開くと、そこには青空が広がっていた。通り雨でも降ったのだろうか、地面が濡れている。辺りの草木には光を集めた滴が輝き、空には虹が浮かんでいた。それはいつか見た虹と同じくらい綺麗な虹だ。 まだ少し夏の匂いが残ってる青空を背に、再び振り返った十代は清々しい笑顔を浮かべていた。 「少なくともこれまでの常識じゃ、俺達がここにこうやって立っていられることは考えられなかった。あのまま、新しい次元に飲まれてもおかしくなかった。いや。本来ならそうなってたと思う。だからここが、俺達にとっては次元を超えた新しい世界だ・・・!」 そう言って、十代は笑った。だからヨハンも笑うことにした。 「そうだな・・・!」 十代に続いてヨハンは青空の下に足を進める。 先のことはわからない。それでも十代が笑っていてくれるなら、それ以上望むことはない。 今も塞がっていない心の傷が疼いて苦しかったけど、それさえも甘受しようとヨハンは思った。 |
| back index next |