光闇 「忘れられた世界の果て〜奇跡の花を咲かすために生まれてきた〜







 十代はその時全てを失くしたと思った。
 特別だと思った人を失くし、共に歩んできた仲間達を失くし。
 前に進む理由を、戦う理由を失くした。

 そう思った十代には、己の前に現れた者に抗う理由がなかった。
 得体の知れないその者達が何故己を襲うのか、理由を知る必要もすでになかった。
 俺には十代を守らなければならい理由があった。

 十代は俺であり、俺は十代であったから。

 十代が俺をどう思おうと、俺が十代をどう思おと、関係無い。
 己を守る必要があった。だから俺は十代に姿を見せた。
 そして十代は俺を拒むことは出来なかった。拒む理由もなかった。
 それがどれ程苦痛であろうとも、十代はただ俺という存在を受け入れる他なかった。

 そして俺は己の成すべき事を成す為に戦い、結果負けた。
 経過などは関係無い。負ければそれまで。

 それまでのはず、だったのに。




 turn.10 覇王再び




「・・・・・・お前!」
「・・・・・・アンビリーバボー!これは予想を超えた事態だね」
 ジムとのデュエルを終えた頃、いつもならすでに起きて来てもおかしくない時間にもかかわらず、あまりにも静かな病室に違和感を覚えて、様子を見に行った俺達の前に信じられないことが起きていた。
 十代はベッドに起き上がっていたが無言で身動きひとつ無い。そして真っ直ぐ正面を捉えたままのその瞳の色に、一瞬で心と身体に深く刻み込まれたあの感覚が蘇える。
「・・・・・・十代・・・いや、覇王・・・・・・!」
「どうしてお前が!?」と口思わずを吐いた疑問に、覇王は視線だけをこちらに向ける。久しぶりに目にした殺気のこもったその瞳は、あいかわらずまるで百獣の王を前にした様で一気に緊張感が高まった。が、彼がこちらを見ていたのはほんの一時ですぐに視線を正面に戻した。
「・・・・・・俺がここに居るのことに、問題があるのか?」
「問題、というよりはこの状況を把握したいってところかな」
 すぐに次の言葉が出てこない俺とは違い、ジムはいつもと変わらない様子で答えた。異世界でもそうだったが、彼は覇王が恐ろしいとは思わないらしい。覇王も取り立ててそのことを気にする様子もなかった。
「フン・・・・・・簡単なことだ。俺はお前とのデュエルに負けた。その時までの記憶を取り戻した。それだけだ」
「なるほど・・・・・・記憶を失っていることも、君はちゃんと把握できてるんだな」
「何故こんな事態になっているのかはわからないがな」
 正面を見据えたまま、これ以上話すことはないと言わんばかりに黙り込んでしまった覇王を前に、オブライエンとジムは視線を外すことが出来ず固定したまま、小さな声で話し合う。
「・・・・・・ジム、どう思う?」
「お手上げだね。俺が来る前のことで何か心当たりは?」
「少なくとも俺が把握している範囲ではない。ヨハンなら何か気づいたかもしれないが・・・・・・」
「そのヨハンにもこれは予測出来ていたかどうか」
 そこでそれでま正面を睨みつけていた覇王が急に動いた。ベッドから立ち上がると立ち塞がっていた俺達ことなど御構い無しに歩を進め、反射的に退いた俺達に視線を合わせることもなくそのまま病室から出て行こうとする。
「おい十代・・・じゃない、覇王!何処に行くつもりだ!?」
「お前には関係な、」
「「「!!!」」」
 慌てて止めようとした俺達の目の前で、信じられないことが起きた。ドアを開いて出て行くと思われた覇王がそのまま前進してドアの横の壁に激突したのだ。どうやら顔を強打したらしく、彼はその場で顔を抑えて蹲った。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
 彼らしからぬ?失態に何が起こったのか、どう声をかければいいのかもわからない。
3人分の沈黙がしばらく流れた後、ぶつけて鼻を赤くした覇王が立ち上がるのを見ていて、少し様子がおかしいことに気付いた。何事もないように装ってはいるが、周りを確かめる様にその手を空に彷徨わせると、今し方ぶつかった壁に手を付いて確認しているように見える。それを見ていたジムも同じように感じたらしい。彼はすぐにその原因を導き出して尋ねた。
「覇王、もしかして君は目が見えていないのか?」
「・・・・・・だとしたら、どうだというんだ」
 どうやら図星だったようだ。彼でなくても今の失態は少しばかり恥ずかしいだろう。覇王はばつが悪そうにそう答えたが、見えないということを誤魔化そうとはしなかった。
 だが、失態の原因が目の見えない所為だとなると話は別だ。少なくともついさっきまでの十代にそんな様子はなかったのだ。記憶を取り戻し覇王が出て来た?ことが切っ掛けには違いないだろうが、それが視力を失う理由としては説明がつかない。
 ただ相手が十代なだけに常識ではかれるとも思えない。少なくとも俺とジムだけで判断できる問題でもなさそうだと彼に目配せすると、すぐに意図を汲み取り覇王と話を続けた。
「そうだね、一度ドクターに調べてもらった方がいいだろうね。何より君が不便だろう?」
「・・・・・・問題な、」
 おそらく勘でドアから外に出ようとしたのだろう。そう答えながら覇王は再び歩き出すとドアを通り過ぎ、棚に足を引っ掛けて倒れた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
 再び沈黙が流れたが、今度は驚きというより、思わず噴き出しそうになるのを堪えようと二人してわざと覇王から顔を背けた。痛みにふるふる震えながら必死に声を堪える彼は気付いていないだろうが、それまでとのあまりのギャップに自分の中の覇王というイメージがガラガラと音を立てて崩れていく。
「・・・・・・え、と・・・トイレにでも行きたいのかな?それとも何か欲しいのかい?」
 ジムは気を使いながらそう声をかけたが、さすがに連発した失態が堪えたのだろう。覇王は座り込んで俯いたまま黙り込んでしまった。それまでの殺気とは別の、他人を拒絶するオーラを発していて声をかけることを躊躇わせる。もともと面倒見のいいジムはそんな彼をも物ともせず言った。
「君の望みを言ってくれれば力になるよ。君も知っているだろう?俺達はその為にここにいるんだから」
 冷静かつ思いやりあるジムの言葉に、覇王も抗うことを諦めたようだ。少し考えた後、素直に「・・・・・・喉が渇いた」と答えた。
「OK。君は何が飲みたいのかな?キライなものはあるかい?」
 ジムはとても自然に覇王の元に歩み寄り手を引いて立ち上がらせると、病室に戻りベッドに座らせる。
「コールドとホット、どっちがいいかな?」
「・・・・・・温かいもの」
「君は甘いのは好きかい?」
「キライではない」
「OK。あと、目を見てもらう前に擦り傷の手当てをしておこう」
 甲斐甲斐しく世話を焼くジムに内心ホッとする。ここに彼がいてくれてよかった。もし俺だけだったらここまでスムーズにことは運ばないだろう。下手をすれば睨み合ったまま時間だけが経過していく様が脳裏に浮かぶ。
 しかしジムの言葉に素直に従う覇王を目前にして、それまで張り詰めていた空気がすっかり切れてしまった。少なくとも今の覇王に以前のような脅威は感じない。自分の中の彼に対する恐怖が全て消えたとは言いがたいが、少なくともここに居る目的を果たすことは可能だろうと思わせた。
「とりあえず医者を呼んで来る・・・」
「そうしてくれ」
 予想外の緊張と緩和に脱力しながらジムに声をかけると、こちらを振り返った彼の顔にも苦笑が浮かんでいた。何事もないように覇王に接しているが、実のところ俺と同じように動揺しているのかもしれない。そんなことを思いながら逃げるように病室を後にした。






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