それは童実野町の港から車で湾岸沿いにしばらく走った、山が海のすぐ側に迫っている場所にあった。市街地からは少し離れていることもありまわりに人気はなく、海を見下ろす崖に沿って作られている道路にも、俺達以外の車の姿はなかった。 森に包まれたその施設の外観は、何処にでもありそうな一般企業の工場でしかない。何も知らなければ、そこで世界を揺るがすような危険な研究が行われているとは、誰も思いもしないだろう。 <破滅の光>相手にこそこそしても意味がない。そう判断した俺達は施設の真ん前に車を止めた。場合によってはすぐに一騒動起こる可能性もあると、緊張の中しばらく辺りを見渡していたがその気配は無かった。どうやら、中に入る前に邪魔されるってことはないようだ。そうできない理由があるのかもしれないし、単純に来るなら来いってことかもしれない。 とはいえ、ここで躊躇して立ち止まることはできない。車のドアを開き先にジムと斎王が降り、俺はペガサス会長と影丸のじーさんとハヤトに貰った、真新しい黒いディスクとデッキをもう一度確認しながら、二人の後に続こうとしたオブライエンに声をかけた。 「ひとつ聞いていいか?」 「なんだ?」 「ユベルがどうなったか知ってるか?」 どうなったかなんて本当は聞かなくたってわかってる。すでに<破滅の光>の手に落ちていると考えて間違いないだろう。けれど、どうしても確認せずにはいられなかった。心の何処かに、もしかしたらという仄かな願望が残っていたのかもしれない。 「・・・・・・ヨハンがハネクリボーと共に連れて行った。すまない・・・・・・」 「謝るなよ。オブライエンは悪くない」 ユベルに対して良い感情はないだろうが、結果としてむざむざとヨハンに渡してしまったことが悔やまれるらしい。オブライエンは申し訳なさそうに頭を下げたが、俺にはそれを責める資格も権利もない。何よりユベルをここまで危険な立場に追いやったのは、他の誰でもない俺自身だった。 それに、例えすでにユベルが<破滅の光>の手に落ちているとしても、俺が成すべきことが変わらない。<破滅の光>を倒し、ユベルもヨハンも救うだけだ。 「さあ、行くぜ・・・・・・!」 ここで全てのケリをつける。気合を入れるようにオブライエンに声をかけると、勢いをつけてジープから降りた。 turn.23 始まりの場所で 門を通り抜け敷地を進み、そのまま施設に侵入するが、誰にも邪魔されることはなかった。それどころか人の姿だけでなく気配さえ無い。こちらとしてはその方がありがたいが、自分達の足音しか響かない空間というのは心地の良いものじゃない。否応なしに緊張感が強くなっていく。 「・・・・・・静か過ぎる」 俺達の先頭に立ち、迷うことなくロビーから奥に進んでいたが、あまりにあっさり先に進めることに不安を覚えたのだろう。辺りを見渡しながらオブライエンが声を潜めて言った。 「ここでの研究に係わっているのは、もともと少人数なんじゃなかったか?」 「そうだ。しかし、D・D・Gに係わっていない研究員や、施設を管理する為の者もいたし、出入り口に居るはずの受付や警備員の姿もないのはおかしい」 「ここもすでに<破滅の光>の手の内だと考えた方がいいだろう」 斎王の言う通り、ここは既に<破滅の光>のフィールド。いつ襲われてもおかしくないはずだ。けれど、どうしてだろう。肝心の<破滅の光>の気配がしない。むしろ、心の闇の中で俺を縛り付けている、光の鎖の方が存在感を主張して息苦しく感じるくらいだ。それとも、俺が気付くことができない位に、<破滅の光>に侵されているのだろうか? そんな疑いを持ってしまうぐらいの静寂に包まれた中、結局、誰にも出会うことはなく、いくつにも区切られているフロアを潜り抜け進んだ先に、こちらを威圧する重苦しい機械の扉が現れた。これまで以上に厳重にロックされているのがわかる。 「ここから先がD・D・Gの管理区域になっている。このゲートは登録されている者しか開くことができないようになっている」 「オブライエンが居てくれて助かった」 もし一人で乗り込んでいたら、きっと力尽くで(今の俺にネオスを呼んで具現化できればの話だが)開けることになってた。それ以前に、例え誰にも邪魔されなかったとしても、途中で迷子になっていたに違いない。今更ながらホッとして素直に礼を言った俺に、扉の横に設置されていたコンソールを操作しながら、オブライエンは口を開こうとしたが、重々しい金属音を上げながら開いていくゲートの向こうに、人の姿を見つけて仲間を止める。 「!・・・・・・みんな、下がれ」 そこは<破滅の光>の力に満ちていた。これまでとは打って変わった、強烈な光に眩暈を起こしそうになる。 これまで進んで来た建物とは別の作りらしく、天井から太陽の光が差し込むように吹き抜けになっている広いロビーに、たくさんの人が立っていた。ゲートが開ききる前に、そこに居た者達の目が一斉にこちらに集まる。生気もなく視線の合わない瞳の奥に、白い光が宿ってちらりと輝くのが見えた。彼等は口々に 「全ての者に平等な光を」 「光を、もっと光を」 と呟き、腕に装着されたディスクを展開させながらこちらに向って来る。 「こいつらは・・・・・・!」 「どうやら、この施設にいた者がここに集まっているようだな」 「しかも正気だとは見えないね」 すでに<破滅の光に>支配されているようだ。しかし、問題は人数の多さだ。パッと見ただけでも100人近くはいるんじゃないだろうか。さすがに全員に対処することは不可能だ。数の威圧感に思わず後ず去ったその時、こちらに向って来るその人波の奥に、人が密集しているのが見えた。すると、そこから聞き覚えのある声が上がる。 「オブライエン!十代も居るのか!?」 「三沢!?」 こちらの声が届いていたらしい。次の瞬間、人ごみを掻き分けて、その中から三沢と数人の男達が飛び出して来た。一瞬罠ではないかと疑ったが、三沢達に<破滅の光>に支配されているような気配はない。 「オブライエン、ゲートを頼む!」 「わかった!」 咄嗟の判断だったが、俺の意図を察したオブライエンとジムは辺りの者を跳ね除けて、三沢達が全員こちらに駆け込んだことを確認するとゲートを閉じた。 「助かったよ」と膝に手をついて呼吸を整える三沢の横で、ゲートが閉じたことで<破滅の光>の影響が弱まったことに思わず安堵して息を吐くと、そんな俺の様子に斎王が気付いた。 「十代?」 「大丈夫、ちょっと光に眩んだだけだ」 こちらを気遣いながらも、オブライエンはその場にしゃがみこんだ三沢と、彼に従っているらしい男たちに声をかけた。 「どうして三沢がここに?確かツヴァイン・シュタイン博士の研究に協力する為に、ここから離れたはずじゃ?それに、お前達にも見覚えがある。確かペガサス会長に雇われていた者達だ」 「オブライエンと同じさ。オレも会長から頼まれていたんだ。もし問題が起こった時は、すぐにシステムを停止させろとね。それで、今日は朝からこの近くに待機してたのさ」 どうやらオブライエンも聞かされていなかったらしい。「知らなかったのか?」と訊ねると、その目をいつも以上に丸くしながら「ああ」と頷いた。 「数ターン先の展開とパターンを読み、できるだけ多くの手を打っておく必要がある。そして、それを相手に悟られないようにするには、まず味方からだそうだ」 「どこまでも食えない人だ」 「ヨハンに気取られないように、十代に会いに行くこともできなかった。思ったより元気そうで安心したよ。まぁ、元気とは言い難いだろうが・・・・・・大丈夫か?」 「ああ、俺は平気だ」 ここまで念入りに準備していたとは、さすがはペガサス会長だと感心するする他ない。俺達は互いに顔を見合わせて苦笑する。 しかし、おかげでこれから先の行動は取りやすくなったと言えるだろう。何せあの人数を突破して先に進まければならないのだ。そして、その先には――― 「ここへ入り込むところまでは上手くいったんだが、あの通り強行突破に失敗してね」 「三沢、ヨハンはすでにここに居ると思うか?」 「どうだろうな。俺が異変を知らされるまでのタイムラグにもよるが、十代達が追いついたということを踏まえれば、もうすでに中に居てもおかしくはないだろう」 この先に<破滅の光>が待ち構えているのは確実だ。やはりヨハンは<破滅の光>に従い、敵として俺達の前に立ちはだかるのだろうか。操られて?それとも自分の意思で? こればっかりは先に進むことでしか答えは出ない。 「さて、どうする?」 円陣を組むように、輪になって頭を付き合せる。 「オブライエン。D・D・Gに向かう為にはここ以外のルートはないのかい?」 「残念ながらここだけは避けられない。だからこそあの体制なんだろうな」 「俺達の目的は一刻も早いD・D・Gの破壊だ。ここで時間をとる訳にはいかない」 「なら、やることはひとつだ」 どちらかといえば単独行動の方が得意な上に、元々デュエル以外では都合良く働かない俺の頭では、強行突破以外にいい方法なんてものは思い浮かばなかった。けれど出直すことも許されない今の状況では、みんなも同じ答えに辿り着いたらしい。頷き合うとオブライエンが指示していく。 「三沢と十代。あと、斎王も。それに三沢の連れて来た中から2人。お前たちは先に進め。残りの者と俺達はここであいつらの足止めする」 「まともな思考を持っているようには見えなかったから、こっちの誘いにも乗ってくれるだろう」 言い終わるとみんなすぐに動き出す。 「オブライエン、ジム。無茶はするなよ」 「それはこっちのセリフだ」 開いたと同時に突入できるようにゲートの前に立つジムとオブライエンに声をかけると、二人とも少し表情を緩めた。 「十代。お前にしかできないことも確かにあるのだろうが、俺達も居るってこと忘れるな」 「オブライエン・・・・・・」 「もし、この先にヨハンが居たらまず一発殴ってやれ。操られているとしても自分の意思であったとしても、それで目が覚めるだろうさ」 ジムの余りにも大雑把な言いっぷりに、呆れながらも珍しくオブライエンが「おいおい・・・・・・」と合いの手を入れる。そしてジムは笑顔で俺に指を突きつけた。ガッチャだ。 「そうしたら、しっかり捕まえて連れて帰って来い」 「!・・・・・・わかったぜ」 随分と久しぶりに感じるガッチャを返して、ジムとオブライエン、それぞれと拳を合わせた。 「行くぞ!」 オブライエンの掛け声と共に重々しいゲートが再び開く。まずオブライエンとジムが左右に分かれて飛び出し、三沢に従っていた傭兵達がそれに続いた。 ジムの予想通りこちらの陽動に乗って、ゲートの前に集まっていた者たちが二手に分かれていくのを、身を隠し窺っていた俺達は、向う先を確認すると三沢を先頭に全力で走り抜けた。 どうやらオブライエンの予想した通り、先ほどのロビーにほとんどの者が集まっていたらしい。その後、行く先を遮る者はいなかったし、三沢がいたことで道に迷うことなかった。 しかし、一歩一歩足を進める度に、俺を締め上げる光の鎖の力がどんどん強くなっていく。こうなることはここに来る前からわかっていたことだ。そして、<破滅の光>に近づいているという証だ。そう考えて苦痛をやり過ごそうとしたけれど、コントロールルームに着く頃には、頭の芯が痺れるような感覚にさすがに危機感を覚えた。 「ここまで来れば・・・・・・!」 三沢が慣れた様子でコントロールルームのドアを開くと、思っていたよりずっと広いそのフロアに数人の研究員の姿があった。ロビーに居た者達と同じく<破滅の光>に支配されているらしい。こちらに気付くとデュエルディスクを展開させて向って来る。 「ここは我々が!」 「任せたぞ!」 2人の傭兵が素早い動きでディスクを展開させ研究員達を誘導する。その隙に、フロアの奥にあったD・D・Gを操作する為のコンソールの元に走ると、さっそくシステムを停止させようとして、携帯を取り出した三沢がその画面を見て声を上げた。 「緊急・・・・・・?」 「どうした三沢」 「ツヴァイン・シュタイン博士から緊急のデータが届いている・・・・・・・・・・・・これはっ!?」 画面に表示された内容を目で追いながら、顔色を変えた三沢のただならぬ様子に緊張が走る。 「何かあったのか?」 「こちらとつながっていた12次元世界のひとつが、崩壊しようとしている・・・・・・!」 三沢の口から飛び出した想像もつかない途方のない言葉に、具合の悪さも一気に吹き飛んだ。一斉に俺と斎王が三沢に噛み付く。 「崩壊だと!?」 「それはいったいどういうことだ!」 「このシステムが異世界へとつながっていることは知っているな?」 「ああ。詳しい理屈まではわからないが、その時に発生するエネルギーや異世界に存在するエネルギーを回収し、こちらの世界に転送していると聞いた」 ついさっき車の中で軽く説明されただけだというのに、斎王はちゃんと理解しているらしく澱みなくそう答えた。 「その通り。ただし、異世界に存在するエネルギーを、そのままこちらに転送させることは不可能だ。それを可能にしたのがこのシステムのスゴイところだ」 「それと異世界の崩壊と、どうつながるんだ?」 異世界の崩壊について話していたはずなのに、いつの間にかD・D・Gの話になっていて、話の方向が見えず思わず口を挟んだ俺に、三沢は「まぁ、話を聞け」と続けた。 「こいつはそのエネルギーを、一度デュエルエナジーに変換さることによってそれを可能にしたのさ。つまり、D・D・Gが起動している間、異世界からこちらの世界に強大なデュエルエナジーが流れ込んでいる状態になっているんだ!強制的に特異点を発生させ、異世界とつなげるだけでなく、途切れることなくデュエルエナジーが流れ込み続ける・・・・・・この状態の危うさはわかるだろう!?」 きっと三沢の頭の中では、今この時も俺にはまったく理解出来ない数式が駆け巡っているに違いない。具体的なことはさっぱりわからないが、三沢なりに噛み砕いたのだろう説明で、感覚的に状況を把握することはできた。そして、その状況とまったく別の出来事のように感じる異世界の崩壊が、パズルが当てはまるようにひとつになる。 「まさか、その所為で異世界が崩壊を始めたのか・・・・・・!?」 「そのことに関しては一概にそうだとは言えない。前兆は今回の件の前から観測されていたんだ。俺と博士は何が起ころうとしているのかそれを調べていた。だが俺はまったくの無関係だとは思わないね。均衡を破れば確実に変化が起こる。すべての事象には理由がある。それに、例え崩壊がこのシステムとは係わりのないことだとしても、異世界とつながっている限りその影響は免れない・・・!それを避ける一番単純で確実な方法は、一刻も早いシステムを停止と破壊だ。特異点を消すにはそれしかない!」 話が終る前に、三沢はコントロールパネルに指を躍らせた。そんな彼を後ろから覗き込み斎王が訊ねる。 「三沢、システムの停止に時間はかかるのか?」 「何の邪魔もなく順調に進めることができれば、停止だけなら数時間あれば可能だ。しかし、システム自体と異世界はすでに強いつながりができてしまっている。次元の歪みを完全に消すには、出来得る限り早く破壊してしまうことに越したことはないだろう」 指の動きを止めることなく、片手で上着の内ポケットから小さなカードサイズの記憶媒体を取り出すと、パネルの横にあった溝に挿し込んで、作業を進めながら三沢はそう答えた。こうなると俺と斎王にはその様子を見守ることしかできない。 本当は、今もまだ俺の中に残る<破滅の光の力>を使えば、三沢の手を煩わせることもなく、D・D・Gを停止させるとこができた。その方が時間もかからないし、上手くやればそのまま破壊してしまうことも可能かもしれない。 ただし、それは自分の生命を省みず、<破滅の光>やヨハンのことを無視した方法だった。以前の、先のことやまわりのことまで気が回らない俺だったなら、何も考えずにそうしたかもしれない。けれど今の俺にはわかる。それは愚かな選択だ。他に選択肢がないなら話は別だが、先のことを考えるならここは三沢に任せるべきだ。 この後、確実に<破滅の光>は妨害してくるだろう。俺がやるべきことはその時<破滅の光>と決着をつけることだ。そう自分に言い聞かせながら、辺りを警戒していた俺にハネクリボーが声をかけてきた。 『クリクリ〜!』 「相棒?」 何だと訊ねる前に、俺の耳にかすかな声が届いた。 『・・・・・・・・・・・・じゅう、だ・・・・・・』 「!」 聞き間違えるはずがない、それはユベルの声だった。声の元を求めてあたりを見渡していると、そんな俺の様子に斎王が気づいた。 「どうした?」 「声が、ユベルの声が聞こえた・・・・・・!」 「ユベルの声が?オブライエンはヨハンが連れて行ったと言っていたな」 「近くにいるのかもしれない。三沢、斎王」 「罠の可能性が高いぞ!?」 すぐにでも探しに行こうとする俺を三沢が慌てて止めた。もちろん三沢の言いたいことはわかる。けれど、たとえ罠だとしても、ユベルの声を無視することなんて俺にはできない。「それでも俺は行くぜ!」と足を踏み出そうとした俺の肩に斎王の手が掛けられる。斎王も三沢と同じように反対するだろう。そう思ったが、予想に反して斎王の口から出たのは同意の言葉だった。 「私がついて行こう。三沢、ここは任せていいな」 斎王の提案に三沢はほんの少し考え込んだが、すぐに了解してくれた。 「・・・・・・・・・・・・わかった。今の十代にユベルは必要不可欠だ。もし、ユベルを取り戻せるならそれに越したことはないしな。いいか、十代。早く見つけ出して、ちゃんと戻って来い」 「三沢・・・・・・ガッチャ!」 オブライエンとジムにしたように三沢にもガッチャを送って、斎王と共にコントロールルームから走り出した。 今の状態で何処まで信頼できるのかと問われれば、随分疑わしいものだったけれど、自分の勘を頼りに足を進める。しかし、コントロールルームからたいして進むことができない内に状況が変わる。起動音と振動と共に隔壁が閉じ始めたのだ。 「こちらの妨害をしてくるということは、この先にユベルがいるのは間違いないようだ!」 「斎王、走るぞ!」 迷っている時間はない。この先にユベルがいると信じて、次々と左右から閉じていく隔壁の間をいくつか駆け抜けた所で、俺の後ろを走っていた斎王が突然倒れこんだ。 「ぐっ・・・・・・!」 「斎王!?」 鈍い音と斎王の呻き声に振り返った俺の目に飛び込んで来たのは、倒れこんだ斎王の片方の足首を捕らえる光の錠と、それにつながる鎖だ。 その鎖の先にいたのは、壁を通り抜けて現れる幽霊のように透けたヨハンの姿だった。ハネクリボーはその姿を見た途端、毛を逆立てると慌てて俺の後ろに隠れてしまう。姿はヨハンにそっくりだが、蒼ではなく白い髪を揺らし、白銀の光を帯びた瞳を細め、舐め回すように見つめながら口の端を上げた。あいかわらず気に障る笑い方をする。 『ふうん・・・・・・これはこれは。波動の器と直接会うのははじめてだったな』 「これは・・・・・・!」 「・・・・・・<破滅の光>!」 「!・・・・・・・・・・・・なるほど、性質の悪さは変わらないようだ。」 最初は何が起こったのかと目を丸くしていたが、そいつが<破滅の光>だとわかると、斎王はすぐにそれが俺に対する嫌がらせだと察して、俺を背に庇うように立ち上がるとディスクを起動させた。 「ここは私が。十代、君は先に進め!」 「いや。<破滅の光>を斎王一人に相手させるわけにはいかない!俺も一緒に戦う!」 そう言い終わる前に、俺と斎王の足元にあった隔壁が動きはじめた。俺より一瞬早くそれに気づいた斎王に突き飛ばされ、慌てて上半身を持ち上げた時には、その隔壁はすでに通路の半分程度まで閉じてしまっていた。このままでは、斎王一人で<破滅の光>と向かい合うことになる。 この隔壁を操作しているのが<破滅の光>ならば、D・D・Gに囚われていたあの時のように、俺にも止めることぐらいはできるかもしれない。嗟にそう考えた俺は隔壁に手を翳し、それを支配している光に干渉しようとしたが、次の瞬間強い衝撃が身体を駆け抜けた。 「ぐああああ・・・・・・っ!」 「十代!」 全身を焼かれるような感覚に、崩れ落ちる身体を隔壁に預けることで精一杯だったが、なんとかその動きを止めることはできたらしい。身体を通すことはできそうにないが、互いの顔を確認できる程度の隙間を残して隔壁は止まっていた。 苦痛に思わず悲鳴を上げた俺に、<破滅の光>が笑い声を上げる。 『残念だったな。さすがにそこは通れないだろう。ダメージを受けてまでやることじゃないな』 「バカなことを・・・・・・!」 「・・・・・・はは、思ったようには、いかないな。でも、これなら、デュエルは可能だぜ・・・・・・!」 さすがにこんなダメージを受けるとは思わなかった。けれど、これで俺にもコントロールが可能だってことははっきりした。必要ならもう一度干渉してでもここを開くまでだ。 これ以上心配をかけまいと痛みが残る身体に力を入れて立ち上がる。その様子を斎王は黙って見ていたが、その視線を<破滅の光>に移しそいつを睨みつけながら言った。 「十代、君は今すぐユベルを探し出して来るんだ」 「<破滅の光>が、それを許してくれると思うのか?」 「許してはくれないだろうな。しかし、オブライエンにジム、そして三沢も。口にはしなかったが、D・D・Gを停止させ破壊することが、君の生命にかかわるかもしれないと察している。そして、今の様子を見て私は確信してしまった。不本意だろうが<破滅の光>に逆らう行為は今の君にとっては命取りになる」 「それは・・・・・・それでも、俺は・・・・・・!」 「もちろん世界の危機を軽視しているわけではない。君の気持ちも。だが、みんな世界だけではなく君の生命も同じように守りたいのだ。その気持ちを、希望を、つなげる為にも。ここは私に任せてくれないか」 「斎王・・・・・・」 『おいおい、俺を前にもめるている場合か?』 <破滅の光>を前に背を向けることに抵抗感があって、素直にそれを受け入れることができずにいると、<破滅の光>が『そうだな。俺がお前の未練を断ち切ってやるよ』と言っては指を鳴らした。すると、何かに引っ掛かったような音を立てた後、再び隔壁が動き出す。 「十代!行くんだ!」 「斎王・・・・・・わかった。お前も気をつけろよ・・・・・・!」 たぶん気をつけろよという声は斎王には届かなかっただろう。言葉の途中で隔壁は完全に閉じてしまった。もう隔壁の向こうに居るはずの斎王と<破滅の光>を思わせる気配さえも感じない。同時に先に続く隔壁も動き出し、これ以上その場に留まることは許されなかった。 縺れそうになる足を必死に動かしていくつかの隔壁を通り過ぎると、その通路の先に大きなゲートが現れた。「登録されている者しか開くことがことができない」というオブライエンの言葉を思い出してここで足止めかと舌打ちしたが、俺の姿に反応して自動で開いていく。どうやらそのゲートはロックされていなかったらしいが、これまでのことを考えるとさすがに疑わしい気分になった。 「やっぱ、罠だろうな・・・・・・」 そうだとしても、ここまで来て諦めるわけにはいかない。ユベルの姿を求めて先に進むと、奥へと広がっていたフロアに並ぶひとつのドアの前で相棒に呼び止められた。 『クリクリ〜!』 「相棒?」 どうやらこのドアの先にユベルが居るらしい。息を殺してその気配を探ってみると、さっきよりも近くでユベルの声が聞こえた。 『・・・・・・じゅう、だい・・・・・・』 「ここだ!」 ユベルの声に気持ちが上昇しかったその時、聞き馴染んだ声がその空間に響いた。 『あいかわらず、お前は甘いな』 それは<破滅の光>だった。反射的にヨハンではないかと期待してしまう俺は、本当にイカレてるかもしれない。そいつは天井を通り抜け俺の前にフワリと降り立った。 「・・・・・・くっ!」 『闇の力に目覚めてから少しはマシになったと思ったけど、まだまだだな』 「まさか、斎王は・・・・・・!」 『ああ、器ならまだ俺の一粒とデュエル中だ。だが、今は自分の心配をした方がいいんじゃないかなぁ』 そいつと向き合っていると、光の鎖がギリギリと全身を締め上げられるように感じる。首も錠が深く食い込んでいるようで息苦しい。頭の芯の痺れもますます酷くなって、考えることを邪魔してくる。視界が揺れながらぶれはじめたところをみると、まっすぐ立っているかどうかも怪しい。 けれど、ここにいるのは俺一人。俺の今の状態もよくわかっているのだろう。ニヤニヤと笑いながらこちらに近づいて来る<破滅の光>に、覚悟を決めてディスクを展開しようとしたその時、ユベルの気配を感じたドアが開いて力強い声が耳に飛び込んで来た。 「―――――十代!!!」 「!」 そこに立っていたのは間違いなく、肉体を伴ったヨハンだった。 わかってる。ヨハンは<破滅の光>の側にいる。もしかしたら、今、俺の前にいるのも本当のヨハンではなく操られているかもしれない。けれど、その澄んだ碧の瞳は俺のよく知っているヨハンにしか思えなかった。 「十代、さぁ!」 「ヨハン・・・・・・」 こちらに駆け寄って来たヨハンはその手を差し出す。警戒を解いちゃいけない。そう思っているのに、俺はほとんど無意識に伸ばされたその手をとってしまっていた。 |
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